介護事業所には処遇改善加算手当というものが存在するので通常の労務管理よりも少し複雑です。
今回は処遇改善加算について解説していきます。
処遇改善加算手当とは
処遇改善加算手当とは正式には介護職員処遇改善手当という名称です。簡単に言うと介護職員の処遇を改善することを目的とした国等から事業所へ、そして事業所から介護職員へと支給される手当のことを指しています。
少子高齢化が進み、介護サービスを受ける人口は増加していますが、反対にそれを支える介護職員が少なく処遇を改善して介護職員へ就職する人材を増やして行きたいという考えです。
処遇改善加算手当を受け取る流れ
処遇改善加算手当を受け取る流れですが、まずは通常の介護報酬を介護事業所が受け取る流れを確認していきましょう。介護サービスは原則的には利用者の1割負担となっています。介護サービスの利用料の1割を利用者が介護事業所へ支払い、残りの9割は国等から国民健康保険連合会を通じて介護事業所へ支払われます。
処遇改善加算というのはこの介護サービスの利用料に一定の率を掛けた額を加算した額を国から受け取ることができるようになります。
加算例 | 通常 | 処遇改善加算あり |
利用者負担 | 1,000円 | 1,000円 |
国・都道府県・市町村の負担分 | 9,000円 | 9,000円 |
処遇改善加算分(仮に13.7%の場合) | 1,370円 | |
合計 | 10,000円 | 11,370円 |
処遇改善加算手当のお金の流れ
処遇改善加算手当を受け取るためには、まず介護事業所は処遇改善加算の要件を満たす必要があります。
- 処遇改善加算→国等から介護事業所に入ってくる加算
- 処遇改善加算手当→介護事業所から介護職員へ支給される手当
となりますので「国等(国保連を通じて)→介護事業所→介護職員」というお金の流れになります。
処遇改善加算として介護事業所へ入ってきたお金は、全額処遇改善加算手当として介護職員へ支給しないといけないルールになっています。
介護職員処遇改善加算の要件
介護事業所の介護職員処遇改善加算の要件は次のようになっています。処遇改善加算は1〜3の3種類あります。
処遇改善加算Ⅰ | 処遇改善加算Ⅱ | 処遇改善加算Ⅲ |
キャリアパス要件1 キャリアパス要件2 キャリアパス要件3 を全て満たす | キャリアパス要件1 キャリアパス要件2 を全て満たす | キャリアパス要件1 キャリアパス要件2 のいずれかを満たす |
職場環境等要件を満たす | 職場環境等要件を満たす | 職場環境等要件を満たす |
その他共通の要件
- 介護職員処遇改善計画書を作成し、提出すること。
- 賃金改善を行う方法等について計画書を用いて職員に周知すること。
- 介護職員処遇改善加算の算定額に相当する賃金改善を実施すること。
- 介護職員処遇改善実績報告書を作成し、提出すること。
- 労働保険に加入し、労働保険料を適正に納付していること。
- 労働基準法、労働災害補償保険法、最低賃金法、労働安全衛生法、雇用保険法その他の労働に関する法令に違反して、罰金以上の刑に処せられていないこと。
などの共有の要件もあります。
処遇改善加算のキャリアパス要件1・2・3とは
キャリアパス要件1
キャリアパス要件1は、次をすべて満たす必要があります。
- 介護職員の任用の際における職位、職責又は職務内容等に応じた任用等の要件(介護職員の賃金に関するものを含む。)を定めていること。
- 上記の職位、職責又は職務内容等に応じた賃金体系(一時金等の臨時的に支払われるものを除く。)について定めていること。
- 上記2項目の内容について就業規則等の明確な根拠規定を書面で整備し、全ての介護職員に周知していること。
簡単に言うと役職ごとの責任や職務内容を定めて、賃金体系と連動させて運用しましょうという事です。
キャリアパス要件2
キャリアパス要件2は、次をすべて満たす必要があります。
- 介護職員の職務内容等を踏まえ、介護職員と意見を交換しながら、資質向上の目標及び下記のいずれかに掲げる事項に関する具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の実施又は研修の機会を確保していること。
- 資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供又は技術指導等を実施(OJT、OFF-JT等)するとともに、介護職員の能力評価を行うこと。
- 資格取得のための支援(研修受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、費用(交通費、受講料等)の援助等)を実施すること。
- 上記の項目について、全ての介護職員に周知していること。
簡単に言うと介護職員のスキルアップのために研修や資格取得を計画して、実行しましょうという事です。
キャリアパス要件3
キャリアパス要件3は、次をいずれかの仕組みを導入する必要があります。
- 以下のいずれかの昇給する仕組みを導入
- 経験に応じて昇給する仕組み:「勤続年数」「経験年数」などに応じて昇給する仕組み
- 資格などに応じて昇給する仕組み:「介護福祉士」「実務者研修修了者」などの取得に応じて昇給する仕組み(ただし、介護福祉士資格を有して当該事業所や法人で就業する者についても昇給が図られる仕組みであることが必要)
- 一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み:「実技試験」「人事評価」などの結果に基づき昇給する仕組み(ただし、客観的な評価基準や昇給条件が明文化されていることが必要)
- 就業規則などに定めて介護職員全員に周知をする
簡単に言うと昇給の仕組みを作成して運用しましょうという事です。
職場環境等要件とは
職場環境等要件とは以下の区分と内容になります。
職場環境等要件の全てを満たしている必要はなく以下の2点を満たしている必要があります。
- 以下の表の項目の中から「1つ以上」を満たしている
- 計画期間中に実施する以下の項目の処遇改善(賃金改善を除く)の内容を全ての介護職員に周知している
職場環境等要件の区分 | 具体的な内容 |
入職促進に向けた取組 | ・法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化 ・事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修のための制度構築 ・他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等、経験者・有資格者等にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築 ・職業体験の受入れや地域行事への参加や主催等による職業魅力度向上の取組の実施 |
資質の向上やキャリアアップに向けた支援 | ・働きながら介護福祉士取得を目指す者に対する実務者研修受講支援や、より専門性の高い介護技術を取得しようとする者に対する喀痰吸引、認知症ケア、サービス提供責任者研修、中堅職員に対するマネジメント研修の受講支援等 ・研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動 ・エルダー・メンター(仕事やメンタル面のサポート等をする担当者)制度等導入 ・上位者・担当者等によるキャリア面談など、キャリアアップ等に関する定期的な相談の機会の確保 |
両立支援・多様な働き方の推進 | ・子育てや家族等の介護等と仕事の両立を目指す者のための休業制度等の充実、事業所内託児施設の整備 ・職員の事情等の状況に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、職員の希望に即した非正規職員から正規職員への転換の制度等の整備 ・有給休暇が取得しやすい環境の整備 ・業務や福利厚生制度、メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置等相談体制の充実 |
腰痛を含む心身の健康管理 | ・介護職員の身体の負担軽減のための介護技術の修得支援、介護ロボットやリフト等の介護機器等導入及び研修等による腰痛対策の実施 ・短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェックや、従業員のための休憩室の設置等健康管理対策の実施 ・雇用管理改善のための管理者に対する研修等の実施 ・事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備 |
生産性向上のための業務改善の取組 | ・タブレット端末やインカム等のICT活用や見守り機器等の介護ロボットやセンサー等の導入による業務量の縮減 ・高齢者の活躍(居室やフロア等の掃除、食事の配膳・下膳などのほか、経理や労務、広報なども含めた介護業務以外の業務の提供)等による役割分担の明確化 ・5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備 ・業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減 |
やりがい・働きがいの醸成 | ・ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の介護職員の気づきを踏まえた勤務環境やケア内容の改善 ・地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上に資する、地域の児童・生徒や住民との交流の実施 ・利用者本位のケア方針など介護保険や法人の理念等を定期的に学ぶ機会の提供 ・ケアの好事例や、利用者やその家族からの謝意等の情報を共有する機会の提供 |
就業規則への記載
処遇改善加算の為に以下の部分を就業規則や賃金規定に入れる必要があります。
- キャリアパス要件1では職位、職責、職務内容に応じた賃金体系
- キャリアパス要件3では昇給する仕組み
社会保険労務士事務所 NEUTRALでは福祉を専門的に行なっているので処遇改善手当の要件を満たしたけど就業規則の整備が出来ていないという福祉関係の事業所の方はお気軽にご相談ください。
介護事業だけではなく、放課後デイサービス、訪問看護関係も就業規則の作成は対応しております。