副業で労働時間を通算するケースと通算しないケース

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副業・兼業ニーズの増加の背景

健康寿命が伸び、人生100年時代となってきています。

そんな中、終身雇用や年功序列など日本型雇用の崩壊と大手企業による40・50代の早期退職の増加。そして少子高齢化による年金の支給年齢の高齢化が予測され、高齢者雇用安定法による70歳までの雇用確保の努力義務化など、将来への不安と日本人の賃金が30年間増加していない事による収入を増加しようとするニーズが非常に高まっています。

そしてコロナ禍によるリモートワークの普及による可処分時間の増加と国の推奨が相まって、企業に勤めている時間以外で副業・兼業は2022年では21%の人が副業や兼業をしているという調査結果もあり、非常に増加傾向にあります。

副業・兼業はこれからよりスタンダードになっていきますので、きちんとルールを把握して適切に実施をしていきましょう。

副業・兼業を許可するうえでの注意点

企業が副業・兼業を許可するうえでの注意点もいくつかあり、それがまだ認知されていなく、運用できていないという実態もあります。副業・兼業を許可する上での注意点は、労働時間をそれぞれ通算する必要がある場合があるという事です。

労基法第 38 条第1項で「労働時間は、事業場を異にする場合においても労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されています。

そして労働時間を通算する必要があるかどうかは「労働時間を通算する対象者に該当するか」と「労働時間の通算が適用する規定するに該当するか」の2つを確認する必要があります。

確認❶→労働時間を通算する対象者に該当するのか?
確認❷→労働時間の通算が適用する規定するに該当するのか?

労働時間を通算する対象者に該当するか?

労働時間を通算する対象者と、そうではない場合を確認していきましょう。フリーランスや個人事業主で副業を行う場合は労働者には該当しないので労働時間を通算する必要はありません。また労働者だとしても労働時間の適用がない立場で働いている方も労働時間を通算する必要はありません。

労働時間を通算する対象者

「労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者」に該当する場合は労働時間を通算します。労基法に定められた労働時間規制が適用される労働者というのは通常の労働者は全員が対象になりますので、働いていれば基本的には該当すると考えて下さい。

A社B社(副業)
労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者

この場合はA社は労働時間を通算しなくてはいけませんので、B社で働いた労働時間を申告してもらい、労働時間を通算しなくてはいけない場合に通算する必要があります。

労働時間を通算しない方

「①フリーランス、個人事業主、顧問、共同経営者などの場合」や、「②労働基準法に定められた労働時間規制が適用されない方の場合」は労働時間を通算はしません。①の場合は分かりやすいと思いますが、②の場合は農林水産関係のお仕事をされている方や、管理監督者にあたる方は労働時間規制が適用されませんので、労働時間は通算しません。

A社B社(副業)
労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者フリーランス、個人事業主、顧問、共同経営者など
労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者労働基準法に定められた労働時間規制が適用されない方

この場合はA社はB社の労働時間を通算する必要がありませんので、B社で働いた労働時間を申告させる必要はありません。

労働時間の通算が適用する規定するに該当するか?

労働時間を通算する対象者が副業をしている場合に、次の規定は労働時間の通算が適用されます。

  1. 法定労働時間と、それを超過した場合の割増賃金の規定
  2. 時間外労働+休日労働の合計が単月100時間未満、複数月80時間以下の規定

A社とB社(副業)の労働時間を通算して、法定労働時間を超えていれば割増賃金を支払う必要があります。また労働基準法36条では労働者の健康の保持ために、事業主は時間外労働と休日労働の時間を合計して単月100時間未満、2ヶ月以上の複数の月の平均で80時間以下にする必要がありますがA社とB社の労働時間を通算する必要があります。

過労死を防ぐ目的で単月100時間未満と定めているのに、A社で80時間、B社で80時間だから通算して160時間でも大丈夫、となってしまうと本来の目的から外れてしまうので、通算します。

副業で労働時間を通算が適用されない規定

副業で労働時間を通算が適用されない規定は「自社の36協定の限度時間(特別条項も)」「休日、休憩、年次有給休暇」です。

  1. 「自社の36協定の限度時間(特別条項も)」
  2. 「休日、休憩、年次有給休暇」

まず36協定はその会社の業務の繁閑から、法定労働時間を超えて労働させる必要がある場合に締結して届出を行います。なのでA社の業務上、忙しくなる時期があるから36協定で3時間まで延長して働いてもらう事が出来るという届出しているのに、関係のないB社で3時間労働した事で、A社が忙しい次期に36協定で定めた時間分の延長ができないとなると、業務に支障が出てしまいます。

また休日や休憩、年次有給休暇もA社とB社(副業)の労働時間は通算しません。休憩時間の例で言うと、休憩は8時間を超えると1時間の休憩が必要ですが、A社で4時間、B社で5時間働いた事でA社で1時間の休憩が必要になるとB社では休憩はできないのか?と混乱してしまいます。

労働時間の通算のルール

労働時間の通算する対象者であり、法定労働時間や割増賃金、もしくは過労死防止の労働時間の上限(時間外+休日労働の合計単月100時間未満)に該当する場合は労働時間の通算を行いますが、労働時間の通算のルールは次のようになっています。

  • 所定労働時間内の通算→労働契約の時期の前後で判断
  • 所定労働時間外の通算→時間外労働をしたその日の時間の前後で判断

副業の場合の労働時間の通算のルールは、所定労働時間をまず通算を行い、その後に所定外労働時間の通算を行います。

例えば次のように副業をしている人がいるとします。

A社B社
労働契約の時期2019年2022年
所定労働時間16時〜21時(5時間)9時〜13時(4時間)

まずはそれぞれの所定労働時間を通算します。所定労働時間の通算は労働契約の時期の順番に通算しますので、A社の5時間+B社の4時間という順番で計算します。この時法定労働時間の8時間を超えているので割増賃金の支払いをしなくてはいけませんが、この割増賃金はB社が1時間分支払います。

次は別のパターンで見てみます。

A社B社
労働契約の時期2018年2022年
所定労働時間16時〜18時(2時間)9時〜13時(4時間)

この場合に所定労働時間を通算するとA社の2時間+B社の4時間で6時間となり、法定労働時間を超えていません。その後、所定労働時間では終わらず、B社は13時〜15時で2時間の残業、A社で18時〜19時の1時間の残業があったとします。この所定労働時間を超えた時間に関しては、1日の中で時間が早い方から通算しますので、まずは6時間+B社の2時間で8時間となり、法定労働時間に収まっているのでB社には割増賃金を支払う必要がありません。その後8時間+A社の1時間で9時間となり、法定労働時間の8時間を超える為、A社には1時間の割増賃金の支払いの必要が出ます。

副業で労働時間の通算をする場合のまとめ

副業で労働時間の通算をする場合をまとめるとこんな感じです。副業先が通常の労働者で、割増賃金と過労死基準の算定の場合に副業先の労働時間を通算する必要がありますので、労働者へ労働時間の申告をするように依頼をしましょう。

A社B社(副業)法定労働時間
割増賃金
過労死基準
単月100時間未満
36協定
(特別条項含む)
休日・休憩・有給
通常の労働者通常の労働者通算する通算する通算しない通算しない
通常の労働者フリーランス
個人事業主等
通算しない通算しない通算しない通算しない
通常の労働者管理監督者等通算しない通算しない通算しない通算しない

副業を禁止することは基本的には難しい

いくら就業規則で副業を禁止したとしても、過去の判例を見ると労働時間以外で何をするかは各自の自由と判断されている傾向です。ただし職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務などが全うする事ができない場合は禁止とする事ができます。副業を禁止する場合を就業規則に定める事で、自社の信用や名誉、信頼関係の破壊がないような副業の仕方をすることが出来ます。

副業のニーズは高まっていて、それを禁止したり、適切な対応ができない企業は採用市場を狭め、労働者の離職の可能性も増加します。また本来は禁止できないのにもかかわらず、禁止をしてしまっていたり、割増賃金の支払いの必要があるのにしていなかった場合は、企業のリスクが高くなってしまいます。

就業規則を適切に定め、副業の場合の労務管理を適切に実施する必要があります。副業の制度や就業規則の策定、相談ならお気軽に当事務所までお申し付けください。

東京都町田市の社会保険労務士事務所 NEUTRAL

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